古典に興味を持ちはじめても、
いきなり文章がずらりと並んだ現代語訳を読んで、
なじみのない文化や言葉、知らない人の名前の数々などに慣れず、
諦めてしまうことがよくあります。
そこでおすすめしたいのが、古典を元にした漫画を入り口にすること。
学習漫画をはじめ、これまでさまざまな漫画が出版されていますが、
漫画=面白いってわけじゃないから、
面白くなかったら損した気分になるよね
という人のために、本当に面白く古典を知ることができる漫画を紹介します。
今回は三冊いっきに紹介します。
それぞれの本についてざっくり紹介
【いとをかし】枕草子
この漫画は、
みんな暗記させられた「春はあけぼの」でお馴染み『枕草子』が、
コミックエッセイ風にになったものです。
もちろん、「春はあけぼの?なにそれ」な人でも、楽しく読むことができます。
枕草子の内容だけではなく、清少納言の物事の見方・考え方について
すこし分かるようになっています。例えば…
女だって社会に出て
小迎祐美子 清少納言.新編 本日もいとをかし!! 枕草子.KADOKAWA, p. 21
働いて(=宮仕えして)
世の中ってものを、
知るべきよ!!
女性は出しゃばってはいけないとされていた時代に、
清少納言はすでに女性の社会進出について語っていたのです。
好きな川や山、仕えていた定子さまの好きなところに、
いろんなところに細かく注目できる清少納言だからこそ、
現代の人々も共感できる随筆が書けるんだね
この漫画ではそんな清少納言が描いた「枕草子」から、
全文ではなく「ドキドキする日々」「にくらしい日々」などエピソードごとに、
漫画を描いた小迎先生が「共感した部分」を中心に描かれています。
「お話の続編を楽しみにしていたのに、読んでがっかりさせられてしまった」
「寝ているとき耳元に来る蚊にイラッときてしまう」
「姑にかわいがられる嫁なんてめったにないよね」
など、現代の私たちも「あるある」と言ってしまうような、
日常や人間関係に関する章段を中心に描かれています。
【あはれなり】紫式部日記
説明不要の古典の傑作『源氏物語』の作者・紫式部による日記『紫式部日記』が
コミックエッセイ風になったものです。
紫式部目線の宮中生活から、紫式部の性格までが少しわかるようになっています。
枕草子に続いて発売されたこの漫画本の紫式部ですが、
からっと明るい清少納言とは違い、かなりネガティブな性格がフューチャーされています。
直接、習ったわけでもないのに
小迎祐美子 紫式部.新編 人生はあはれなり… 紫式部日記.KADOKAWA, p. 116
たまたま身についてしまった
この能力…
自分のこの才能が……
ゆううつ
そして世の中ってめんどう!!
生きづらい…
実の父親に「お前が男だったら」と言われたり、
宮中でもほかの女性にインテリ気取りと揶揄された紫式部。
才能があってもなかなか披露することができない環境では、
このように、ネガティブになっても仕方ないのかもしれません。
紫式部、ネガティブって聞いたことはあったんだけど
ネガティブっぷりはかなりのものね…
『紫式部日記』といえば、清少納言への悪口の段が有名ですが、
それを書いてしまうに至った理由もあると漫画では描かれています。
女が漢詩を読むと非難される。知識があるようふるまうと嫌われる中で過ごす紫式部は、
先ほど引用した文のように、生きづらさを常に感じていたのかもしれません。
「ばかのふりをしていれば嫌われない」「漢字の一も知らないふり」
この漫画の中でも、紫式部は嫌われないために道化を演じている場面が描かれています。
監修者の赤間先生は、「清少納言への批評は情熱の裏返し」と解釈されています。
宮中で漢才をひけらかす清少納言への痛烈な批判は、心に封印していた学問への情熱の裏返しだったと見ることができます。
小迎祐美子 紫式部.新編 人生はあはれなり… 紫式部日記.KADOKAWA, p. 85
その見方もあったのか、とわたしは目からウロコでした。
源氏物語という大作をかいてのけるほどの人物が
女であるだけで、自分の努力や才能を封印しなければならなかったのが
どれだけ悔しかったことか…。
紫式部の一面を知り、『源氏物語』をより深く楽しむきっかけになる、そんな一冊です。
【はしるはしる】更級日記
こちらは今年出たばかりの新刊です。
個人の名前どころか、仕事で使う名前すら残らなかった女性が描いた日記が元になっています。
本書では「ムスメ」と呼ばれていて、せめてあだ名らしく呼ぼうという配慮を感じます。
失礼ながらその題名しか知らなかった『更級日記』。
いったいどんな内容なのかと読んでみたところ、オタクな私にぶっささりまくり。
私も実は、気になった作品の全巻を読みたくて神や仏に祈った経験、あります。
田舎の方で生まれた孝標女(たかすえのむすめ)は、
継母や姉が楽しんだ『源氏物語』の続きがどうしても読みたいと
仏像までつくって、誰もいないところでお祈りしたり、強火オタク感がすごいです。
推し活も、聖地巡礼(?)も、平安時代すでにあったのです。更級日記には描かれています。
これは全オタクが刺さるとんでもないオタ活日記なのではないでしょうか。
源氏物語を読みふけりながら、漫画の中で孝標女がこんなセリフを言うシーンがあります。
后の位なんて
小迎祐美子 菅原孝標女.胸はしる 更級日記.KADOKAWA, p. 85
大したことないレベルで
こっちの方が最高!!
『源氏物語』全巻を手に入れた孝標女(たかすえのむすめ)は、
漫画の中で源氏物語に夢中になりながら、こう語っています。
現代で言うなら、大富豪の妻になるよりONE PIECEをずっと読んでいたい!
といったところでしょうか。
当時の憧れでもあったであろう高貴な身分。それを差し置いて夢中になれるもの。
こんなことが言えるものに、人生で一度でも出会えるでしょうか。
正直うらやましいよね…
そんなオタ活日記ですが、50になった孝標女(たかすえのむすめ)が、
「今となっては恥ずかしい…」とセルフツッコミをする、実は黒歴史日記でもあります。
「夢中になって夢見る姿」に共感するのか、
「現実に目を背け、物語にうつつを抜かす若い自分を後悔する姿」に共感するのか。
読む人、読む年代によって違った読み方ができます。
古典の入り口おすすめするる理由
小迎先生の三作は、軽く読めて読み物としても漫画としても面白いのですが、
ただ面白いだけではなく、古典を学ぶきっかけにもなります。
ここからは、このシリーズが
なぜ入門におすすめできるのか、理由を説明します。
専門家の監修つき
『枕草子』『紫式部日記』『更級日記』は、三作とも
国文学者の赤間恵都子先生が監修されています。
赤間先生は『歴史読み枕草子: 清少納言の挑戦状』など、古典研究の本も書かれています。
三冊の漫画の中には「赤間先生のよくわかる〇〇(作品名)講座」と題されたコラムがあります。
コラムでは
作品の成り立ち、清少納言たちはどんな仕事をしていたのか、作品が書かれた時代の背景など
文字だけで書かれていますが、わかりやすく読みやすい解説で読むことができます。
古典を研究されている学者の監修なので、内容に安心して読むことができます。
おさらいに役立つ原文・人物相関図
『枕草子』『紫式部日記』『更級日記』は、漫画だけではなく、原文もついています。
どの部分が漫画になったのか知りたいときに便利です。
おさらいや、さらに難しい本に挑戦するときに参照することができます。
また、人物相関図つきで登場人物の関係もわかりやすくなっています。
現代語訳や原文を読むときに、人物の関係がまとまっている人物相関図があると便利ですね。
(枕草子、紫式部日記はカバー裏、更級日記は本文P20-P21)
現代語訳の本にも挑戦してみよう
今回紹介した三冊は、古典の入り口としておすすめできる本ですが、
漫画そのものはあくまで一解釈であることは留意すべきです。
さらに詳しく知りたくなったら
ぜひ、いろんな解説本や現代語訳も読んでほしいな!
著者によって解釈がちがうから、違いも楽しんでみるといいかも
究極的には原文を読むところまで行ってほしいのですが、
いきなり原文は古典マニアでもない限り難しいところ。
そこで!まずおすすめしたいのが、
漫画と同じくKADOKAWAのレーベル「角川ソフィア文庫」。
「ビギナーズクラシック」シリーズから読むのがおすすめです。
角川ソフィア文庫シリーズでは、
より詳しい注釈本も出ているので併せて買ってみるのもおすすめです。
現代語訳も各出版かららたくさん出ているので、読み比べてみてください。
解釈によって内容も変わったりするので、違いも楽しんでみてはいかがでしょうか。
まとめ
本記事のまとめ
・『枕草子』『紫式部日記』『更級日記』は平安女子の日常エッセイ
・監修つき、原文つき、人物相関図つきで復習・おさらい・学習の入り口におすすめ
・現代を生きる私たちと変わらない人間模様がここにある!
以上、『枕草子』『紫式部日記』『更級日記』の漫画を紹介しました。
三冊とも、漫画も文章も充実していてボリューミーなので、
時間があるときぜひ楽しんで読んでみてください。